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浩然の気

 4月の中学月報より、久保田副校長の文章を抜粋しました。


     「浩然の気」  久保田 眞

 インド・オーストラリアプレートに乗ったインド亜大陸がユーラシア大陸に衝突してヒマラヤ山脈ができた。この壮大な理論を聞いて感心した覚えがあるが、実は同じことが現在も足元で進行している。

 職員室からは、香貫山、象山などの沼津アルプス、その後に連なる天城の山々、そして駿河湾越しに達磨山を望むことができる。伊豆半島の雄大な眺めである。先日出席したある講演会によると、この半島の起源は数千万年前、フィリピン海プレート上で発生した海底火山群であり、日本方向へ移動する間に噴火を繰り返し火山噴出物が堆積して海上に姿を現したという。

 フィリピン海プレートは、駿河・南海トラフではユーラシアプレートの下に沈み、相模トラフでは北米プレートの下に沈み込む。本来なら伊豆半島も沈むところだったが、大きすぎて沈み込めず本州に衝突した。その前に衝突していた丹沢山地は、伊豆半島の衝突の圧迫で隆起した。丹沢に行ったときに貝化石が露出しているところがあったが、これはエベレストでアンモナイトの化石が見つかるのと、そのメカニズムは大筋で同じだ。

 講演では、身近な香貫山を例にあげ、海底噴火由来の凝灰岩や凝灰角礫岩、マグマが流れ固まった安山岩の分布、岩石の写真により香貫山が火山性であることが示された。子供の頃、遊び場同然にしていた場所で、不思議に感じていた風景の示す意味がようやくわかった。これはうれしい体験だった。火山性を示す証拠は伊豆半島全体にあり、石灰岩中の生物化石は暖かい地方に見られる種であるという。半島の元は南方の海底火山にあった。熱海の温泉群は海底火山の噴出口の名残であり、沼津にも可能性のある場所があるらしい。富士山の形成と噴火も箱根の火山活動もすべてが連動している。丹沢山塊は今も、伊豆半島の圧迫で隆起が続いている。

 ともあれ前記3つのプレートに太平洋プレートが加わり、4つがぶつかり複雑に重なり合う、世界でも稀有な場所に我々はたまたま住んでいる。東日本と北海道は北米プレートに、西日本はユーラシアプレートに、伊豆半島はフィリピン海プレート上にある。数千万年前から続く地球の営みが、私たちの眼前で繰り広げられているのだ。この景色、数万年後にはどう変化しているのであろう。これに比べたら、人間の営みなぞ取るに足らない、ちっぽけなものだ。日常に疲れたら、教室から伊豆半島を眺め、浩然の気を養いましょう。研究分野としても面白そう。どなたかチャレンジしませんか。